文化財をバーチャルで「撮影」してみた

工芸や美術品の撮影はいつも緊張します。間違っても傷や汚れひとつつけられないので、慎重に慎重を重ねて扱いますが、それでも何かが起きるかもしれないと常に気を張り続けています。

ところで、テレビや資料集で国宝などの貴重な文化財が紹介されることがあるのですが、同じような写真が使い回されていることがありませんか?文化財は価値が高まるにつれて取り扱いは厳しくなっていきます。どんなに気をつけていても、メディアが取材をするたびに保管庫から出していては、破損や汚損のリスクが高まるため、簡単に撮影させるわけにはいかないのでしょう。けれども、人類共通の資産である文化財がずっと保管庫に入れられていて、ごく限られたアングルからしか見られないのも残念なことです。

もっとも、実際にはメディア側の予算的な都合で写真を借りたほうがいいというのもありますが、このトーンじゃないんだよな‥と思うことも少なくありません。しっとりと見せたいのに、ギラギラの照明だったり、その逆もあったり‥。では、どうすれば解決できるでしょうか?まず、課題を考えてみましょう。

従来の撮影方法の課題

①作品の破損・汚損リスクがある
撮影回数とリスクは比例します。また、取り扱いに慣れていない人に貸し出すのも危険が伴うため、誰にでも撮らせるわけにはいきません。

②撮影コストが高い
白背景での撮影は簡単そうに見えるかもしれませんが、最も難しい撮影のひとつです。光沢のある作品の場合は、写り込みを気にして作品を囲むような覆いを作ったり、作品の形に合わせて背景を加工したりと、1点撮るのに1日かかることも‥。背景やライティングのバリエーションを変えるのも一苦労です。

③その場所に行かないと撮れない
撮影コストにも関係しますが、イギリスのテレビ番組が日本の文化財を撮影したい時は、チームを日本に派遣しなければいけません。

3Dモデルを「撮る」という提案

これらの課題を解決する手段‥。たとえば、3Dモデルを「撮影する」というのはどうでしょう。まず、代表者が美術品を3Dスキャンして、高精細なデータを作成します。あとは、取材依頼があるたびにデータだけを貸し出して、メディアは仮想スタジオで3Dモデルを撮影するという流れです。早速やってみましょう。

すでに美術品などを3Dスキャンしている団体は存在していて、Global Digital Heritageはその一部をSketchfabで無料公開しています。今回はローマ帝国時代の器を使わせていただきます。

Blenderで自分のスタジオと同じ環境を構築して、Sketchfabからダウンロードしたデータをインポート。

あとは現実と同じように自分好みのライティングをしてcyclesでレンダリング。こちらが結果です。普段自分が撮るような質感の画像ができあがりました。

今回はコンセプトが分かりやすいように現実と同じようなスタジオを構築しましたが、実際には背景とライトとカメラさえ設定すればOK。ライティングにこだわらなければダウンロードから「撮影」まで1分もかかりません。

照明も背景も自由自在。世界中のクリエイターがオフィスの中にいながら、自分のスタイルのイメージを撮影することができます。

バーチャル撮影の課題

写真と遜色ない品質の画像が作れて、作品の破損リスクを最小化できる。夢のような方法ですが、当然課題もいくつかあります。

①3Dモデルの制作が難しい
綺麗な画像を「撮影」するためには、綺麗な3Dモデルが必要です。しかし、これを制作するのは難しく、器のような単純な形状であれば問題ないのですが、複雑な形状になると入り組んだ部分の形状やテクスチャが乱れてしまうことがあります。この問題を解決できる技術も技術者もまだまだ不足しています。

②ガラスや漆に非対応
現在の技術では、ガラスや漆、金属など光沢のある素材をうまく3Dスキャンできません。

③ディテールの表現
3Dスキャンにはレーザースキャンやフォトグラメトリなど複数の方法があり、0.01mmの精度で3Dモデルを作成できる場合もあるようです。しかし、テクスチャに関してはズームしてしまうと荒くなってしまいます。マクロで撮影した写真も合成して巨大なテクスチャを作成するなどすればいいでしょうが、あまり現実的ではありません。

④質感の再現
現実世界の物体は光の角度に応じて質感が変化します。たとえば木目に光を当てると角度に応じて光沢を帯びたりのっぺりしたりします。しかし、フォトグラメトリで作られた3Dモデルでは撮影時の光の状態しか再現できないため、3Dソフト上で照明を変更しても、質感がそれに対応しないのです。そのため、照明しだいでは違和感のある画像になってしまうことがあります。

まだまだ課題は山積みですが、これらが解決されたらカメラマンの仕事は大きく変わりそうです。