井波彫刻をフォトグラメトリで3Dアーカイブする

ぼくが住んでいる富山県南砺市井波は、日本有数の木彫りの町と知られ、200人近い木彫刻職人が暮らしています。かつては嫁に行くなら木彫刻師のところへと言われたほど栄えたといいますが、2000年をピークに産業規模は減少の一途を辿っています。井波彫刻の発展は欄間など住宅を彩る彫刻に支えられていましたが、床の間のない家が増え、暮らしに木彫刻が取り入れられることは少なくなりました。弟子入りを希望する若者は毎年一定数はいるものの、親方に十分な仕事がないため、弟子をとる余裕がないのが現状です。

井波彫刻はその多くが受注生産で、同じ形のものを作らないことが特徴のひとつです。かつては次々と注文が舞い込んできたため営業をする必要はなかったのですが、今はそうはいきません。しかし、決まった型がないのに、写真などで記録をしていなかったため、顧客や弟子に事例を見せられないという問題が生じています。また、写真が残っていたとしても、顧客や弟子が写真から立体的な形状を把握するのは容易なことではありません。

ぼくはこれまでフォトグラファーとしていくつもの作品を撮影してきました。もちろん、その作品の魅力が伝わるように構図やライティングを工夫しますが、どんな高解像度のカメラを使っても、生で見た迫力を再現することはできません。やはり立体的なものは立体で見るべきなのです。

撮影した写真(石原良定 作)

フォトグラメトリで立体化する

では、どうすれば彫刻作品を立体で記録することができるか。限られた情報しかない中、いくつかの可能性が見えてきました。

①工業用3Dスキャナを使う方法

まず工業用の3Dスキャナを使う方法が候補に上がりました。この方法であればレーザー光を用いて0.01mmの精度で3Dモデルを作成できるといいます。しかし2つの大きな問題がありました。ひとつ目は、テクスチャがないこと。井波彫刻は木に塗装をしないことも特徴のひとつで、木目の美しさを見せる工芸でもあります。テクスチャがないことは、この魅力を削ぐことであり、大きな問題です。2つめは、機械が高額であること。候補にしたEinScanのスキャナは100万円近くするため、テクスチャの問題を抱えたまま個人プロジェクトで使うにはハードルが高すぎました。

②家庭用3Dスキャナを使う方法

3Dスキャナがあまりに高かったので諦めかけていたところ、クラウドファンディングでRevopointというメーカーから小型の3Dハンディスキャナが発表されました。価格は約10万円。早速申し込んで使ってみたのですが、精度はイマイチで、テクスチャもおまけ程度でした。記録を残すまでもなく1回だけ使ってすぐにヤフオク行き。

③フォトグラメトリを使う方法

最後に試したのはフォトグラメトリという技術を使う方法です。日本語にすると写真測量。字のごとく、角度を変えて撮影した数百枚の写真を解析して、立体モデルを作る技術です。この方法は写真をベースにするため、綺麗なテクスチャをつくれるのがメリット。精度こそレーザースキャンに劣るものの、簡単な形状であれば大丈夫だとか‥?

必要なのは、カメラと専用のソフトだけ。もともと写真の仕事をしているのでカメラは準備OK。あとはソフトの選定をするだけです。調べてみるとおもに「3DF Zephyr」「Meshroom」「RealityCapture 」というソフトがあるようです。

3DF Zephyrはライセンスが60万円ほどだったので見送ることに。Meshroomはオープンソースだったので使ってみたところ、悪くはありませんでした。そしてRealityCaptureは10ドルからクレジットを購入して使えるしくみだったため導入してみたところ、Meshroom以上の精度を見せてくれました。ということで、RealityCaptureを使ってフォトグラメトリに挑戦してみます。

RealityCaptureを使ったフォトグラメトリ

まずはできる限りいろいろな角度から、たくさんの写真を撮ることから始まります。ターンテーブルに作品を乗せて、5度ずつ回転させながら三脚の高さを3段階で変えて撮影していきます。本当なら底面も撮影したいのですが、この作品を横に倒すのが怖いので、今回はこのままで。

使用したカメラはSONY α7RII(4240万画素)で、真上からの定常光一灯だけで撮影しています。(追記:できるだけ影ができないような均一な光で撮影したほうがいいので、リングライトを使ったほうがいいかもしれません。)

撮影が終わったらRealityCaptureにインポートして、Alignボタンを押すだけで撮影した位置を解析して写真を整列してくれます(すごい)。あとは高解像度モデルを生成ボタンを押して1時間ほど放置します。詳しい設定などは気が向いた時に‥。

だいぶ端折りますが、RealityCaptureで生成したモデルをfbx形式でBlenderにインポートします。この時点で頂点が300万近くあるため、Decimateモディファイアなどを使ってポリゴンを削減して軽量化していきます。

また、ところどころボコボコとしたメッシュがあるので、スカルプモードを使って手作業で滑らかになるように修正していきます。さらにさらに、テクスチャが汚い部分があったりするので、テクスチャペイントツールやPhotoshopで切り貼りしてテクスチャを修正していきます。

こうして初めてのフォトグラメトリ井波彫刻が完成しました。SketchfabにアップロードするとPCやスマホでも簡単に3Dモデルをぐるぐる回して作品を見ることができます。

3DモデルをWebサイトに埋め込む

3Dモデルをスマホで見るだけだと大きさが伝わりにくいので、ARも使ってしましょう。ポリゴン数とテクスチャサイズをさらに削減してGLB形式で出力。iOSに対応させるため、RealityConverterでusdz形式に変換します。model-viewerを使うと簡単にウェブサイトに3Dモデルを埋め込むことができ、ARにも対応させられます。

VRで鑑賞する

ARでも十分に作品の立体感を感じられるのですが、せっかくならもうひと手間加えてVRで鑑賞してみましょう。BlenderのVRプラグインを有効化すれば、Oculus Quest 2などのVRデバイスで簡単にVRで鑑賞でき、あたかも目の前にあるかのような迫力を感じられます。

VRギャラリーに展示する

制作した3Dモデルは仮想ギャラリーに展示することもできます。これをメタバース化すれば世界中の人々がどこにいてもギャラリーを訪問して立体的な作品を鑑賞することができるようになりますね。